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漢方コラム

水の巡りを整える「当帰芍薬散」の3つの生薬

漢方コラム

身体の中にたまった余分な水分は、人の身体にも影響を与え、めまい、むくみ、お小水のトラブル、冷え、関節の痛みの原因にもなります。 

 

そういった余分な水分により起こる症状を治療する漢方薬は様々なものがあります。またそういった漢方薬に含まれる生薬には様々なものがあります。

 

今回は、以前のコラムにてご紹介した「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」に含まれる、水の巡りを整える3つの生薬をご紹介します。(以前のコラムはこちら↓)

https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/2400

 

 

当帰芍薬散の構成生薬

当帰 芍薬 川芎 茯苓 白朮 澤瀉 

 

 

   当帰          芍薬        川芎

     

   茯苓          白朮         澤瀉 

 

 

水の流れを整える生薬その1〜茯苓(ぶくりょう)~

 

茯苓(ぶくりょう)という生薬は、当帰芍薬散の他にも、多くの漢方薬に配合されています。

例えば、桂枝茯苓丸、五苓散、柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯、真武湯、猪苓湯、半夏厚朴湯、茯苓杏仁甘草湯、茯苓四逆湯、茯苓飲、茯苓沢瀉湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓甘姜味辛夏仁湯、六君子湯、十味敗毒湯、十全大補湯、清心蓮子飲、人参養栄湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、連珠飲など…。緑色は「傷寒論・金匱要略」に収載されているもの)

  

 

 

キノコの仲間の茯苓

 

 

 

茯苓(ぶくりょう)は松の木の根っこから栄養をもらって生活しているマツホドというキノコの菌糸の塊(菌核)です。マツホドは、高級食材のトリュフのような外観でもあります。マツホドは、松の木が伐採されると菌核を形成します。マツホドは地上からは見えないので、「茯苓突き」と呼ばれる槍のようなもので地中にブスっと刺して掘り出します。地中にあるマツホドは熟練の人にしか見つけられないようです。マツホドの外皮を除いて陰干したものが生薬の茯苓となります。

 

キノコの生態

 

キノコ類はちょっと不思議な生きものです。キノコ類は普段は菌糸という細い糸状の状態で生活しています。菌糸は乾燥に弱く、また光合成を行わないので、周りに利用できる栄養分がなくなると自らも枯れてしまいます。そこで子実体(いわゆるキノコ)を構成し、そこで胞子を作ります。小学生の頃、シイタケを黒い紙の上に置いて放射線状に白い粉の模様ができるという観察をしませんでしたか? あの白い粉が胞子ですね。胞子は風で飛んで、成長に適した場所に落ちると、発芽して菌糸を伸ばします。それが一般的なキノコの生活スタイルですが、一部のキノコは、不都合な生活環境下になると菌核という堅い菌糸の塊となります。

 

当帰芍薬散エリアにて茯苓は…

 

以前、つくばにあるツムラさんの植物園を見学にうかがいました。そこでは、処方ごとに原植物が植えられていて、当帰芍薬散のエリアもあるとのことでした。

「そうするとマツホドも観られるの??」

と期待が膨らみました。

茯苓は菌核ですから、簡単に拝めるものではないからです。 

トウキ、シャクヤク、センキュウ、サジオモダカ、オケラときて、 

ブクリョウのプラカードがのところには松が植えられていました。

「この下にはマツホドがあるのですか?」

 

  

(2014.6 ツムラ薬用植物園にて)

 

と聞いてみると、残念ながら「ない」とのこと。 

そりゃそうだよね、と納得しつつ、マツだけでも植えて工夫しておられるのも面白いなぁと思いました。

 

茯苓の効能

 

茯苓の気味:甘平(あまくて、あたためも冷ましもしない)

 

茯苓は、使用量が多い生薬の一つで、多くの漢方処方に配合されています。一般的には利水作用に目が行きやすいのですが、茯苓には逆に乾いた部分を潤すという働きもあります。

 

薬徴には、悸および肉瞤筋惕を主治するなり、旁ら小便不利、頭眩、煩躁を治すと記載され、(肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき)とは筋肉がピクピク痙攣すること)

 

荒木性次先生は「新古方薬嚢」の中で、「水を収め、乾きを潤し、その不和を調う、故に動悸を鎮め衝逆を緩下し水を利して眩悸等を治す」と記載されています。

 

私も更年期となり身体の内側の乾きを感じ、「乾きを潤しその不和を調う」という効能の素晴らしさに感嘆しています。

 

水の巡りを整える生薬 その2〜白朮(びゃくじゅつ)~

 

 

白朮という生薬は、当帰芍薬散以外にも

例えば、人参湯、五苓散、茯苓飲、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、茯苓沢瀉湯、桂枝人参湯、桂枝去桂加茯苓白朮湯、四君子湯、六君子湯、連珠飲、補中益気湯、人参養栄湯、逍遥散、加味逍遙散、滋陰至宝湯、加味帰脾湯、清暑益気湯、半夏白朮天麻湯など…

非常に多くの漢方薬に配合されています。 

 

 

 

キク科のアザミに似たオケラ

 

キク科のオケラ又はオオバナオケラの根茎を乾燥させたものが白朮です。 

 

   オケラ

(2015.10東北大学にて)

 

 オオバナオケラ

(2015.6富山にて)

 

ちょっと紛らわしい朮のはなし

 

白朮に似た生薬に、蒼朮(そうじゅつ)という生薬があります。蒼朮は、ホソバオケラが基原植物です。ホソバというだけあって、ホソバオケラは葉っぱが細いです。
 

  ホソバオケラ

(2014.小石川植物園にて)

 

  

(1月に観たホソバオケラはすっかり枯れていました)

(2014.1小石川植物園にて)

 

生薬の白朮と蒼朮は、どちらも消化機能を調節して気の働きを助けますが、どちらかというと白朮は消化機能調節の働きに優れ、蒼朮は水の滞りを除く作用に優れているといわれています。 

古典の薬徴には、「その水を利するは、蒼は白に勝る」とあります。 

 

         白朮           蒼朮     

 

 

蒼朮は硬く、断面から白色のフワッとした綿状の結晶を析出します。その結晶はカビと間違われてしまいそうですが、その結晶が析出したものが良品とされています。

 

白朮の効能

白朮の気味:苦温(苦くて温める) 

薬徴には、利水を主る、故によく小便自利、不利を治し、傍ら身煩疼痰飲、失精、眩冒、下痢、喜唾を治す、とあり、

荒木性次先生は新古方薬嚢の中で「水をさばきその滞りを除きよく小便を調う。故に小便不利、小便自利を治す」「応用:水気(むくみ)の病、小便不調の病、胃腸の病、筋や骨のいたむ病(手足やその節々や背骨などの)其の他に応用広きもの也」と記載されています。 

 

 

水の巡りを整える生薬 その3〜澤瀉(たくしゃ)~

 

 

 

澤瀉(たくしゃ)という生薬は当帰芍薬散以外に、八味腎氣丸、五苓散、沢瀉湯、茯苓沢瀉湯、猪苓湯、牛車腎気丸、六味丸、柴苓湯などに配合されています。 

 

水中に生育するサジオモダカ 

 


(サジオモダカ 2008.10 筑波植物資源センターにて)

 


(サジオモダカの花 2015.6吉田自宅にて)

 

「澤瀉(タクシャ)」というと聞きなれないかも知れませんが、訓読みの「おもだか」というといかがでしょうか。歌舞伎で「おもだかや!」と声がかかるのは、市川家が昔、生薬問屋だったことに由来する屋号としても知られています。

漢方では、オモダカのうちでもサジオモダカという植物の塊茎が薬用になります。葉がサジ(匙)の形をしているオモダカです。葉がヘラの形をしているヘラオモダカという種類もありますが、ヘラオモダカは薬用にはなりません。 

 

オモダカは、「面高(おもだか)」にも通じ「面目が立つ」とか、葉の形が矢じりに似ていて「勝ち草」ともいわれ、戦国武将の福島正則、毛利元就等の家紋にも用いられたということです。 

縁起の良い植物なのですね。 

 

小石川植物園で探したサジオモダカの想い出

 

ある年、書物「新古方薬嚢」にサジオモダカとして掲載されている写真がヘラオモダカに見えると、師匠との間で疑義になりました。その写真は小石川植物園で昔に撮影されたという注釈を頼りに、小石川植物園が店から近い私は探しに出掛けました。ところが私は3回ほど訪ねても見つけることができませんでした。私が見つけられなかったことを師匠にお伝えした後、師匠は春日部からお出かけになられ、なんと一回目の訪問で探し当てられたのでした。
 

書物の解釈にしても隅から隅まで丁寧な師匠とはこんなところでも差がでるのだなぁと感じながら、教えていただいた場所をさがしました。最初に私が探しに出かけたのは1月でしたが、すっかり日数も経ち、その頃はもう夏となっていました。猛暑の中、そうそうは足を踏み入れそうにない場所に、汗だくになりながら辿り着いた時には少々感動しました。

 

澤瀉の効能

沢瀉の気味:甘寒(甘くて冷ます)

薬徴には、小便不利、冒眩、渇を治すとあり、

荒木性次先生の新古方薬嚢には、「熱を去り、燥きを潤すことをなす、故に刺激を緩和することを主どる。その主目證は、渇ありて水を欲するもの、冒眩あるもの、小便不利あるもの等なり」とあります。

生薬は、その形や、元の植物の生息状況に応じた働きを見せてくれることがありますが、澤瀉が浮腫、小便不利、口渇に用いられる特性は、原植物のサジオモダカが水中に自生して水を通じるところから連想されます。

 

最後に

当帰芍薬散は、6種類の生薬からなり、今回はそのうちの水の巡りに関わる3種類の生薬、茯苓、白朮、澤瀉をご紹介しました。
 

水の巡りをよくするといっても西洋医学で使う利尿剤とは違います。
漢方薬の場合、単に水を排出するのではなくて、必要な所には届ける、つまり調整する働きがあるのですね。そこが、生薬の不思議な所でもあり、魅力なのだと思います。 

 

前回と今回で当帰芍薬散の構成をご紹介しましたがいかがでしたか?

 

漢方薬は、生薬が単独ではなく、組み合わることで、治療に一定の方向性を持ちます。当帰芍薬散は、血の巡りと水の巡りを整える生薬が配合されていて相互に働いて効能を示すのですね。

 

コラム~血の巡りを整える「当帰芍薬散」の3つの生薬~も合わせてご覧ください。
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/2457

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました❣ 

 

 

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【この記事の著者】若草漢方薬局 店主 吉田淳子 
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